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若者はなぜ3年で辞めるのか?(9月23日)

以前、ある大学の教授が自分のゼミの卒業生10人が3年間で全員初就職先を辞めた、と嘆いておられたのが、ずっと心に残っていました。それで、先日来、城成幸著『若者はなぜ3年で辞めるのか?~年功序列が奪う日本の未来~』という本を読んでいました。(今日は、ちょっと長いブログです)

年功序列は終わったといわれて久しく、今や上場企業の約9割で成果主義が取り入られているそうです。とすれば、やる気と才能、そしてハッキリしたキャリアビジョンさえ持ち合わせていれば、若くても活躍できる時代になったのでしょうか? そうではなく、むしろ状況は逆になっていると著者の城さんは述べています。

それどころか、いまの時代、汗水たらして働いても若いときの苦労は決して報われないどころか下手をしたら、一生下働きで終わる可能性もあるそうです。この本にはたびたび、「昭和的価値観」と「年功序列制度・終身雇用」という言葉が出てきます。この意味は、「しっかり勉強して進学校に行き、いい大学を出て大企業・行政機関へ就職すれば、定年までどんなことがあっても安心・安定している」という考え方です。

ある会社では、1990年代後半から徐々に新卒離職率が高まり2002年には更にその率が高くなり20人の入社者にいたっては20人のうち8人が3年以内に退職しているとのこと。
その理由は「本人の希望と実際の業務内容がかみ合わない、つまりミスマッチ」が多いということです。このことに対して、たいていの人は、「わがまま」「忍耐不足」といいます。しかし、これには大きな理由があり、それが年功序列制度です。

日本では、大半の企業は長く年功序列制度を維持しており、これは、勤続年数と共に少しずつ組織内の序列が上がり、それに比例して報酬も上がるシステムです。業務自体はプロジェクトごとに内容が変りますが、組織の序列自体は基本的に不変です。そうなってくると、序列を最優先して実際の業務が割りふられて、上になる人ほど裁量権があり、企画等も出来ますが、こういう一連の流れが末端に下りてくる頃には単純な作業になり果てているのです。個人の裁量があるのは部長以上、それより下の序列となる単純な仕事だけとなり、本人がハーバート大卒であろうとMBAホルダーであろうと、このことは変らないということです。このような企業のシステムは優秀な若者にとっては、耐えられないのです。

日本人の企業に対する従順さを城さんは、羊のような従順さだと言います。羊を逃がさないようにするには、二つの方法があるとのこと。 ①逃げられないように鎖でつなぐ、②そもそも逃げようという気を起こさせないことであり、日本の教育も企業文化も、従順な羊を創りだす道具としての一面を持っているといいます。だから、企業が採用において重視するのは、学歴や専攻だけではありません。部活動もそれ以上に重要視されることがあるのです。つまり体育系の学生。 それは、なぜか? 彼等の企業から見た最大のセールスポイントは「主体性のなさ」とのこと。そして、彼等の徹底した組織への自己犠牲の精神であり、結果として、彼は並みの若者などよりは、ずっと従順な羊でいてくれる可能性が高く、つまらない仕事でも「上司にいわれたこと以上は」きっちりこなすのです。

「日本人は与えられた義務を果すことに幸福を見出す」といわれるように、年功序列的世界でのレールと同じ意味合いを持っています。年功序列は、安定性と引き替えに過酷な労働を強いるだけでなく、一度レールからはずれた人間は、なかなか引き上げようとはしません。そういうことは、自分に適した人材を育成するために教育システムも作り上げてきました。小学校から始まるレールの中で、試験によってのみ選抜されるうちに、人はレールの上を走ることだけを刷り込まれ、何時しか自分の足であること忘れ果て、最後は選別されてランクごとに企業という列車の乗り込み、後は定年まで走り続ける・・・・これを城さんは昭和的価値観の正体だといっています。

しかし、現代の若者は当然のようにそれぞれの動機を求めレールから降り、動機が充足されれば、更に上を目指して転職し、起業を始めています。そういう若者は、“心の鎖”を解き放ち、「何のために働くか」を自分の頭で考えているのです。

城さんはいいます。「何よりもまず、すべきことは、自分の頭の中で昭和的価値観を一旦脇に置き、透明な目で周囲を見渡して見ること」だと。このことは、過日、慶応大学のM教授が「日本の最大の教育における失敗は、自分の頭で考える人を育てなかったことだ」といわれたことに近いのではないでしょうか?

ただ、今日書いたタイトル「若者はなぜ3年で辞めるのか?」ということから云えば、3年で辞める人の中で、本当に自分の頭で考え、辞めて成功した人は僅かに1割とのことです。
こうしてみると、この「なぜ」の部分に大きなヒントがあるようです。

by eastwatery | 2007-09-23 23:31  

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