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乙武先生のできること(4月19日)

4月12日に「乙武さんのメッセージ」をブログで書きました。『AERA』(‘07.4.02)には、4月2日から彼が杉並区立杉並第四小学校に勤務することになった経緯が書いてあります(それ以前、彼は、2005年から2年間「新宿区子どもの生き方パートナー」
として務めていました)。

乙武さんは、通信教育で教員免許を取得し、公立小学校の教員になりたかったのですが、水泳やピアノの実技が課せられる教員採用試験は受からないと思っていました。しかし、、彼の意志を知り、動向を注視していた杉並教育委員会から採用の申し入れがあり、「任期付教員」として務めることになったのです。杉並教委としては、乙武さんが勤めた場合生じるであろう100項目に及ぶ「不都合リスト」(例えば、理科の実験、喧嘩の仲裁、体育の指導・・・・)を作成し、メールでそれを送ってきたそうです。

乙武さんは「圧倒されました。客寄せなんかじゃなく、本当に一人の教員として務まるのかどうか、具体的に考えてくれていると思えて嬉しかった」と話しています。面談ではこの項目のリストをひとつずつつぶして行ったそうです。例えば、一人で車椅子からソファに移れる、健常者と遜色ない速度でパソコンが使える、あごと左腕に挟んだ腕で通知票の枠内に収まる細かい文字も書ける・・・など。その結果「不都合」の9割5分までは介助者を一人置くことで解消できると分かったとのこと。

残ったのは不審者の侵入、大地震の発生、子どもがプールで溺れた、などですが、杉並区の担当者が、これらは誰でもできないということを認識し、一人で全部できなくても先生同士が協力し合えばいい、それを見せることもまた、子どもたちのためになるという結論に至り、乙武さんの採用が決まったということです。これからは、これまでも乙武さんを介助して来た男性が派遣職員として杉並区に雇用され、共に学校に通う予定だということです。

私は、この記事を読み、混乱する教育界、学校格差ができやすい実力テストの決定など、子どもたちにとってこれからの日本の教育はどうなっていくのか危惧をしていた気持ちが、少し落ち着きました。中には「乙武さんだからできること」という人も出てるかもしれませんが、彼が一番伝えたいことである「それぞれ、違っていていいんだよ」というメッセージは、彼が言うように「明らかに他人とは違った形で生まれてきた自分の体と生き方は、(子どもたちにとって)何よりの教材になる」と思うのです。

乙武さんが、そのように思うようになったのは、以前彼がアスリートを取材することを通して「できないことはできない。でも、持っているものを最大限に発揮しようと努力することはできる」ということ気づいたのです。

このことは、これから乙武さんが、教員生活をする中で、折に触れ、どんな場面でも実際の自分の生き方や行動を通して、子どもたちに十分伝えていくことができると思います。「Learning by doing」とデューイが提唱しているように、乙武さんも自分の体と心を通して理屈よりも何よりも「違うことは悪いことではない、一人ひとりの個性なのだ」、「自分の持っているものを最大限に発揮しようとする努力の大切さ」を自然に伝えていけると期待しています。

乙武さんが、ありのままの姿で、ごく自然に自己表現することが、どんなに素敵なことなのか、子どもたちが感じてくれることを望んでいます。

by eastwatery | 2007-04-19 22:19  

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