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私の生き方に影響を与えた人(2月7日)

 私は、幸いなことに小・中・高等学校・大学と必ず私を励まし、見守り続けてくださる先生に出会ってきた。その中でも、私の生き方に大きな影響を与えてくださったのは、中・高等学校、そして卒業後も「国語の先生になって僕たちの仲間に入るのを待っているよ」といってくださった先生だ。

 そのS先生は、私の詩の添削をする事を通して「人間はいかに生きるのか」「何が人生において大切なのか」ということを伝えてくださった。私は詩を書いたら、だまって先生の机の上においておいておいた。そうしたら、いつも赤字の小さな字で余白びっしりと批評などを書いて返してくださった。

 忘れられない事がある。思春期の頃、私が暗い、どうしようもなく暗い詩を書いていたらしく、先生は、その詩に対して「どうしたの?君はこんなことを書く人ではないよね。今度は、詩ではなく『今、私が考えている事』ということを作文で書いてごらん」と書いてあった。

 自分では、先生がそういわれるほど落ち込んでいたわけではなかったけれど、奨学資金とアルバイトでやっと高校へ通える状態でもあり、大学進学をしたくても下にまだ弟がおり、大学進学をあきらめなければいけなかった頃だと思う。母に心配をかけたくない気持ちもあり、自分の思いは抑えていたので、詩の中にその思いが表現されていたのだろうと思う。

 その後、私が書いた作文に先生がどのようなことを書いて下さったのか、今は分からなくなっている。他の詩集は、紙が黄ばみ、ぼろぼろになっても残っているのに、なぜその作文がないのかわからないが、確実にあのとき作文の中に書かれていたことで、自分は希望をもって生きてていこうと思うようになったと思う。

 先生は私が高校を卒業した後も、私が大学進学をして「国語の先生」になることを待っておられ、先生を訪ねると「こういう参考書があるよ」とくださったりもした。しかし、私は就職後、3年目に結婚し、そのときは大学進学の道は止まってしまった。

 それから、25年後私は47歳で4年制大学の初等教育学科に社会人入学をした。国語の先生ではないが、長年の夢がかなった。しかし、残念ながら先生は、その3年前に事故でなくなられていた。晩年は、アルコール中毒気味でお酒が欠かせず、外出からの帰途深く広い溝に落ちてなくなられた。生徒を愛し、生徒の人生に深くかかわって励まし続けてくださった先生だったから、多くの教え子が葬式に参列し、涙していた。

 私が、社会人入学したとき、中国四国地方で昼間部の4年生大学へ入学した社会人は私が初めてだったので、いくつかの新聞に掲載された。私はともかく先生の奥様に大学入学をお知らせしようと電話をかけた。

 奥様は、涙声で「新聞を見ましたよ。主人がどんなに喜んでいる事か。あなたが取り上げられている新聞を仏壇に供えましたよ」といってくださった。先生には何の恩返しもできないままであったことが悔やまれ、人の死のあっけなさを切実に感じた。命のはかなさを身を持って感じた。先生は、まだ、なくなられるには若い、58歳だった。その1ヶ月前に学校を辞め、郷里で農作業をする事になったという葉書を下さった。今でも、その懐かしい字を時々読んでいる。

 私は大学卒業後、大学に残って勤務する事ができ、小学校教員を目指す学生たちの小論文の添削を仕事外でしていた。学生が「先生、忙しいのにごめんなさい」と申し訳ながることよくあった。ある日、自宅に持ち帰り、いつものように添削をしているとき「もしかして、これは先生に返せなかった恩を学生が代わりに返させてくれているのでは?」という思いが去来した。ず~っと
先生に「申し訳ない」と後悔していた事が、そのときにふっと消え、学生の小論文を添削する事が楽しくなった。

 現在、今度は社会人で大学進学を希望する人たちの小論文指導をNPO活動でしている。この活動は、一人ひとりの成長を見ることができ、私の喜びとなっている。ある人がいってくれた。「ボクはここに来て学習だけでなく、人間力をいただきました」と。それこそ、私が思春期のときにS先生からいただいた「生きる力、人間力」だったのだ。現在、社会人が大学で学ぶには、まだまだ環境が整っていない。社会人が大学で学習・研究する事に対する世間や大学の先生方の意識も偏見があるし、制度なども整備されていない。時間がかかってもいから、牛歩のような歩みでいいから、この状況を変えていきたいと思い1年半前「社会人学生ネットワークきらめき」を立ち上げた。

 そのことで、また東京のある大学の先生が、私を励まし続けてくださっている。この方も私の生涯の師となる人だと思う。その事は、また後日に書こう。




 
 

by eastwaterY | 2006-02-07 23:20  

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