ある高校教師の軌跡と生徒の思い~その1~(7月1日)
2007年 07月 02日
昨年は、Sさんと仰る82歳の男性と同席させていただきました。私がOLをしていた時には、お互いに挨拶をするくらいのことでしたが、Sさんは優秀な社員でどんどん昇進されても、いつも温和で謙虚な方でしたし、今もそうです。だから、昨年もSさんの隣に座らせていただいて、いろいろな話をして楽しかったことを思い出しました。
今日は、宴が始まってしばらくして、Sさんが「これは、僕の息子のことが書いてあるので、読んでみてください」とおっしゃって小冊子を持ってきてくださいました。宴の最中であっても、とにかく読んでみたいので、「はじめに」を読んでみると、今年3月にSさんのご長男(高校の数学教師)が50歳でお亡くなりになったこと。その教え子たちの絆を、読売新聞朝刊で6回にわたって連載したところ、大きな反響があり、それをこの小冊子にまとめた、ということでした。
その内容にひかれ、宴の間も少しずつ読み続けていましたが、次第に出席者から話しかけられたりするようになったので、このような大事な話をここで読むのは失礼と思い、帰宅後じっくりとこの6回分の連載を読ませていただきました。
Sさんのご長男Mさんの通夜には、高校の教え子が続々とやってきて百数十席があっという間に溢れ、しかも焼香を終えても、みんな帰ろうとしなかったとのこと。そこで、お別れをしてもらおうと棺を開けると人波が棺を囲んで「先生」といったきり声を上げて泣くものなど数知れず・・・・・午後7時に始まった通夜は、午後10時を過ぎてもMさんにもう一度会いたい教え子が引きも切らず、最後の一人が焼香を終えたときには日付が変わっていたそうです。記者がこの6回の記事を書いたのは「こうまでして駆けつけようと思う絆とは・・・」と思うほど、若者たちの姿が悲しみを越え、美しい情景として胸に迫ったからです。
そこで記者は、「なぜあんなにMさんは慕われたのか」を探るために、卒業生を訪ねて取材をしました。ある卒業生は「卒業してからも会いたいと思った先生はM先生だけ」だといいます。数学の授業は分かりやすく、声は低く、よく通るが、めったに荒げることはない先生だったようです。Mさんは教師になりたいという息子に「子どもの指導は指図してできることではないんやで」とむつかしさを語り、子どもの側に何かをしようという気持ちが生まれなければだめなのだと言ったとのこと。だから、彼は生徒にも決して、ああしろ、こうしろとは言わず、生徒自らの決断を後押しした、と言います。
実際にMさんは生徒が動き出すとき、何かで迷い、悩んでいるとき、いつも先回りをして全力でサポートをしました。たとえば、進路指導のとき、その生徒が迷っていることに関する情報を調べたり、多くの学校の情報を集めるなどして、「それぞれにいいところがある。自分でいいと思う方に決めろ」と背中を押すという。結果が出たとき、「合格してよかったな」「がんばって資格とれよ」と、言葉は平凡であっても心がこもっていたと言います。見守られていると信じられると生徒は言います。そして、必ずその場にいない者のことを「あいつは、どうしているんや」と尋ねたとのこと。
ある卒業生は「先生は全員に対して何か同じようなことを言っているようで、実は、生徒がそのときに必要としているメッセージを一人ひとりに発信していたのです」、だから、みんなに「自分だけ」の思い出があるのです。「教師と生徒、1対40の関係じゃなく、先生の場合、1対1が40人分あったんです」。これらのことはMさんが日頃から一人、一人の生徒のことをじっくりと見て、分かっていなければ、できないとだと思います。
また、別の卒業生は「先生のことが嫌いな生徒は、もしかしたら、いたかもしれない。でも、先生には嫌いな生徒はいなかった」と確信していると言います。「一人ひとりが大切に思われているという無条件の安心感」があるのです。「朝、先生の顔を見ると、すごく落ち着いて1日を始められた」、「ほっとするオーラがあった」とのこと。つまり、生徒を公平に好きであり、それは何も特別なことではなく、教師の大原則のように聞こえます。
さらに、卒業生は「先生は、先生なんやだけど、3年1組の一員でもあった」「僕らは毎日、学校へ行くのがとても楽しかった」、そして、「M先生のクラスでよかった」とも言いました。それを聴いたS先生のご長男は、「ボクがなりたい先生像に近いです」といい、近じか教育実習の教壇に立つということです。
長くなりました。この続きは明日書きます。記事を読んだ人たちの反響は大きく、その中のコメントも書きたいし、最後に小冊子をくださったMさんのお父様であるSさんの思いを伝えたいのです。そして、このことに対する私の思いも伝えたいと思っています。最後まで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。常に「教師はどうあるべきか」を謙虚に考えておられるブログ仲間のRさんには、特にこのことお伝えしたいと思いました。
by eastwatery | 2007-07-02 00:03