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一言の重み(11月29日)

第12回新聞配達に関するハガキエッセイコンテスト入選作品に「一言の重み」を感じるエッセイが掲載されていました。Nさんが不登校だった中学生の時、よく夜中の3時に家の前に出て、通り過ぎる車や空などを漠然とした孤独感に包まれながらぼんやりと眺めていたとのこと。ある日、現実から逃れるように座ったまま下を向いていたら、朝刊を配達に来たお兄さんと目が会い、その人がマスクをかけていたのでNさんは『大丈夫?』と声をかけたら「大丈夫。有難う」といった後、お兄さんは、『君も・・・大丈夫やで?』という言葉をNさんに声をかけてくれました。その一言でNさんは安心感に包まれました。今では、毎日楽しく登校する日々で、配達のバイクの音を聞くたびに、言いそびれた言葉『こちらこそ、有難う』と小さく唱えているということです。

このお兄さんは、毎日新聞を配達する中でNさんが、ちょっと元気がないことに気づいていたのでしょう。だからお兄さんはNさんに『君も・・・大丈夫やで?』といった訳ですが、この(・・・・・)の部分が戸惑いながらも、頑張ってほしいなと思いつつ、思い切って「大丈夫やで」と声をかけたのでしょうね。この・・・の部分の空白は、Sさんにとってお兄さんの気持ちが伝わって、とても大事な意味があったような気がします。

このエッセイを読んで思い出したことがあります.私が、女子大学に勤務していた時、ちょっと悩みをもったり、話を聴いてもらいたい学生がよく私の研究室に来ていました。その中に、いつも元気で活発な、大柄の学生がいました。みんなが教員採用試験の受験があるからと、ちょっと暗くなっている時でも彼女はいつも明るい学生でした。当時、彼女は教員になる気はなかったからです。ところが、卒業後、彼女はオーストラリアへ日本語教師として1年間滞在しました。そのことを、私は知らなかったのですが、帰国後彼女から手紙を頂きました。「先生、オーストラリアから帰国後私はどうしても小学校の先生になりたくなって、今、教員採用受験をするために大阪の専門学校の寮に来て頑張っています。
でも、長時間机に座って勉強することができません。私はオーストラリアで子ども達が大好きになり、どうしても小学校の先生になりたいのです」というような意味の手紙が来ました。

それに対して、私がどう返信したか憶えていないのですが、それからも何度か、彼女と手紙のやり取りをしました。そのうち彼女は、本気になって受験勉強に取り組むようになりました。寮生活の中で仲良くなった人とTVは合格するまで見ない、毎日○○時までは勉強するなど自分たちで規則を決めて頑張っているようでした。その後あと1ヵ月後に教員採用試験が迫った時、不安な気持ちを伝えて来ました。その時に、「それだけ頑張ったから大丈夫よ」と伝え「私はいつもあなたの合格を念じているよ」と伝え、坂村真民さんの詩を紹介しました。

【念ずれば花ひらく】

念ずれば 花ひらく   苦しいとき 母がいつも口にしていた このことばを
わたしもいつのころからか となえるようになった
そうしてそのたび わたしの花がふしぎと ひとつひとつ ひらいていった

この詩を贈った年には彼女は、残念ながら、不合格でした。しかし、次の年に彼女は、見事に合格したと坂村真民さんの詩と絵が描かれたハガキで私に知らせてくれました。そこには最後に「この坂村さんの詩を読んで夢がかないました」と書いてありました。彼女がこの詩を大事にしてくださったからこそ、夢が叶ったのだと思うと同時に、「一言の重み」を強く感じ、今でもちょっと胸が熱くなります。

おまけで、坂村さんの詩を、もう1つ紹介します。(ちょっと長くなりますが・・・・)

【二度とない人生だから】

二度とない人生だから 一輪の花にも 無限の愛を そそいでゆこう
一羽の鳥の声にも 無心の耳を かたむけてゆこう
二度とない人生だから 一匹のこおろぎでも ふみころさないように こころしてゆこう
どんなにか よろこぶことだろう 
二度とない人生だから 一ぺんでも多く便りをしよう
返事は必ず 書くことにしよう
二度とない人生だから まず一番身近な者たちに できるだけのことをしよう
貧しいけれど こころ豊かに接してゆこう
二度とない人生だから つゆくさのつゆにも めぐりあいのふしぎを思い
足をとどめてみつめてゆこう
二度とない人生だから のぼる日 しずむ日 まるい月 かけてゆく月 四季それぞれの
星々の光にふれて わがこころを あらいきよめてゆこう
二度とない人生だから 戦争のない世の 実現に努力し そういう詩を 一遍でも多く 作ってゆこう わたしが死んだら あとをついでくれる 若い人たちのために この大願を 書きつづけてゆこう

by eastwaterY | 2006-11-29 18:16  

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